遊走子を直接たたいてくれる殺菌剤は、 根こぶ病の防除に、非常に有効だと思います。
「土壌病害の一番の難物『根こぶ病』は、
病原菌をやっつけないと根本的な対策にならない」
こう語る後藤教授に、詳しいお話をうかがいました。
「根こぶ病」は、アブラナ科野菜の大敵
Q.アブラナ科野菜の病害にはどのようなものがありますか?
土中に潜み、根から感染する休眠胞子
Q.根こぶ病とは、どんな病害なのですか?
根こぶ病の病原菌は、ネコブカビというカビの仲間です。土中では「休眠胞子」と呼ばれる胞子の形で潜み、アブラナ科野菜の根が近づいてくるまでは、ずっと眠って待っています。その最長記録は20年ともいわれています。この病気の特徴は、根に2回感染して、初めて「こぶ」ができることです。はじめ根毛に感染し、その中で細胞分裂して、一旦土の中、つまり根の外に出ます。そしてまた根に入り込み「こぶ」を形成します。その「こぶ」によって根の維管束が圧迫され、水が吸収できなくなる。地下から地上部に水がいかなくなることで枯死へと至ってしまいます。それがこの病気の実態です。
根の中で感染が拡大する、驚異の増殖力
Q.根こぶ病は、どのように広がっていくのですか?
水の流れや風によって広がります。休眠胞子は非常に乾燥に強く、畑表面のだいたい15〜20センチ位の所にたくさんいて、風で砂埃が舞うと他の所に運ばれます。そして、根の中でも増殖します。休眠胞子は、形成した「こぶ」の中でどんどん細胞分裂し、「こぶ」1グラムの中に、だいたい1億位の休眠胞子がいるといわれています。ですから、被害株を根ごと畑に鋤き込んだり、畑の片隅に1株か2株放っておいたりすると、どんどん広がってき、2〜3年もすれば畑全面に広がってしまう、非常に怖い病害ですね。
根こぶ病に対する総合防除対策
Q.この病害を防ぐために、どんな対策がとられているのでしょうか?
まず一つは「土壌の酸性改良」です。根こぶ病菌は、酸性の土壌を非常に好みます。したがって、具体的には、pHを7以上にすると効果があり発病しにくくなります。あとは土壌の物理性、特に「水はけ」を良くすることです。もう一つは、「おとり作物」。具体的には、根こぶ病が発病する畑に、ダイコンや葉ダイコンを作付けすると非常に効果があります。そして、「殺菌剤の散布」です。これらを駆使した総合防除対策というのが行われてきました。
従来の殺菌剤は休眠胞子の発芽を抑える「静菌作用」
Q.「殺菌剤の散布」とは、どのような効果を発揮しますか?
従来の殺菌剤は休眠胞子の発芽を抑制する「静菌作用」という働きで、感染のもとになる遊走子を直接殺菌するものではないといわれています。発病を抑えられはしますが、病原菌の数を減らすわけではないため、そこが大きな課題とされてきました。
遊走子を直接たたく薬剤を待望
Q.遊走子に直接作用する殺菌剤はありますか?
もし、感染の元になる「遊走子を直接たたいてくれる」薬剤があれば、非常に有効だと思います。画期的な対策手段になりますね。休眠胞子を発芽させて叩くわけですから、菌の密度も減らすことが可能になります。土壌病害は全てそうなのですが、いずれにしても土の中の病原菌の数を減らさないと、根本的な対策にはなりません。根こぶ病に関しては、土壌の酸性改良が非常に効果的ですので、それと遊走子を叩く薬剤を併用すれば、より早く菌密度を落とすことが可能になるのではないかと考えております。ですから、そんな殺菌剤の登場に関して、非常に期待しております。
(プロフィール)
東京農業大学 応用生物科学部 生物応用化学科
後藤 逸男 教授(農学博士)
東京農業大学教授で土壌学・肥料学の専門家。生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」会長も務め、その指導により多くの農家から高い信頼を得ている。
根こぶ病の遊走子を直接たたく!