カンキツ類のミカンサビダニの生態と防除について
日産化学工業(株)技術顧問
西野敏勝(元長崎県果樹試験場長)
1)生態
カンキツ類の芽の間隙で成虫越冬し、春発芽とともに新葉に産卵します。6月ごろから増殖を始め、葉での発生ピークは6月下旬~8月上旬です。果実には6月下旬ころから寄生が始まり7月下旬から8月下旬にピークになります。秋の気温が高いと10月中旬頃まで多発する場合があります。年間の発生回数は約15回程度です。高温で生育期間が極端に短くなり、短期間で急激に増殖します。
20℃ 25℃ 30℃
1世代の所要日数(卵から卵) 16.0日 10.0日 7.5日
雌成虫の生存日数 14.7日 14.0日 5.8日
2)被害
葉では新葉が変形したり、褐色のしわを生じ、激しい時は落葉します。果実の被害は果皮が褐変し、コルク状に硬化して、商品価値の低下を招きます。
3)ミカンサビダニの近年の多発生とその理由
以前は黒点病防除で、ジチオカーバメート系薬剤が年に4~5回散布されていて、ミカンサビダニが同時防除されていたため、ミカンサビダニの被害は全く問題になりませんでした。
平成12年度は、ジチオカーバメート系薬剤に対する薬剤抵抗性が進展して、各地で後半の被害が多発しました。平成13年度はミカンサビダニに好適な気象条件により、早期から広域に多発生しました。 多発生の理由として以下が考えられています。
①ジチオカーバメート系薬剤(マンゼブ剤、マンネブ剤、ジネブ剤など)に対する抵抗性の拡大
②ハダニ剤でミカンサビダニにも有効な薬剤が、6~7月のミカンサビダニの重要な防除時期に散布されなくなった。
③石灰硫黄合剤などの硫黄剤(ミカンサビダニに顕著な効果)が散布されなくなった。
④近年の暖冬で、ミカンサビダニの越冬密度が高く(推定)、早期から密度が増加して年間の発生量が多くなった。
4)ミカンサビダニが多発生する気象条件
①春の気温が高い(2~4月):越冬ミカンサビダニの生存率が高くなる。
②夏の降水量が少ない(6~7月):密度上昇初期への降水の影響が少ない。
③秋季が高温で経過。
5)防除の考え方
① ジチオカーバメート系薬剤の抵抗性が発達した地帯では、黒点病とミカンサビダニとの同時防除が不十分となるため、葉と果実を対象とした年間の防除体系を組むことが必要です。
② 従って、生産コスト低減の点からも、ミカンサビダニ専用薬剤を組み込んだ、ミカンハダニとの同時防除を考慮した防除体系を検討する必要があります。
③ 6月中旬から7月上旬までに、ミカンサビダニの葉から果実への移動開始期に散布します。残効は2ヶ月程度なので、8月から9月にかけて果実対象の散布が不可欠です。また前年多発園や、昨年のような多発年には、7月中旬以降発生をみたら早急に再度散布が必要です。
④ 安定した効果を得るために、散布量を十分確保し、葉裏に薬剤が十分付着するように、葉裏にていねいに散布します。6月~7月のミカンサビダニは主に葉裏にいます。鉄砲ノズルは不適です。
⑤ ミカンサビダニが果実に加害し始めてから、果実被害が見えるまでの期間は、約10日から14日と考えられます。果実被害が散見された時にすぐ散布してもその約10日後ころに、散布までにすでに受けていた加害痕が目で見える果実被害として現われてしまいます。
⑥ そこで果実被害防止の防除タイミングは、殺菌剤的な考え方で、ミカンサビダニの発生推移にあわせて、果実被害が発生する前の予防散布が重要です。散布は内成り果、および裾成り果にも薬剤が到達するようていねいに行ないます。
6)ミカンハダニとミカンサビダニの同時防除体系の考え方(*は日産化学推奨剤)
ミカンサビダニは一回の散布では防除できません。ミカンサビダニとミカンサビダニの密度を低下させるためには、冬季・夏季のマシン油を含めた年間の体系防除を徹底することが重要です。
A 6月~7月にミカンハダニの発生が少ない時(冬季・夏季マシン油の効果が高い園等)
①6月上~下旬:高度精製マシン油乳剤(約1ヵ月密度抑制)
②7月上~下旬:ミカンサビダニ専用剤(*サンマイト水和剤:約2カ月の残効)
③8月下旬~9月:ミカンハダニとの同時防除が可能な薬剤を散布
(*マイトコーネフロアブル:約1ヵ月半~2カ月の残効)
④昨年のような多発年では、被害発生状況と気象条件を見て4回目の散布の検討も必要です。
B 6~7月にミカンハダニの発生が多い時(冬季マシン油、夏季マシン油を散布せず発生が多い園や夏季マシン油の効果が低い園等)
① 7月上~中旬(発生が早い場合は6月中下旬):ミカンハダニ、ミカンサビダニ同時防除が可能な薬剤(*マイトコーネフロアブル)
②8月上~中旬(早めの散布):ミカンサビダニ専用剤(*サンマイト水和剤)
③ 昨年のような多発年では、その後の被害発生状況と気象条件を見て、9月から10月にかけて3回目の散布が必要となります。
以上、防除の考え方を述べましたが、実際の防除にあたっては、各県の指導に従ってください。